染色の説明ついでにシルケット加工についても書いておこうと思います。

先日コットンウールの染め分けとカチオン化綿の染色について順に書きました。

このあたりの加工と同じ位の頻度で質問を受けるのがシルケット加工です。

コットン素材に光沢を与える加工として割と知名度もある加工なので、その名前を耳にされたことのある方も多いかもしれません。

この加工についてインターネット上で色んな方が解説されていたのですが、誤解を招くような説明がなされているケースが多かったのでこれも説明しておきたいと思います。

そもそも光沢というのは光の反射に起因するものなので、光沢のある素材というのはよく光を反射する素材であると考えれば大体合っています。

では光がしっかり反射する要因とはどんなものかといいますと、表面が均一で一定方向に光を返す状態になっていることが重要な条件です。

これはプラスチックでも金属でも同じことで、よく磨かれて表面がつるつるの方が光ります。

曇りガラスや梨地仕上げの金属の表面は拡大すると凹凸だらけなので反射する光が分散して光沢は出ません。

反対に御影石やダイヤモンドなど採掘した段階では曇った表面のものも磨きをかけていくとピカピカに光りますし、人間のお肌も角質を除去して湿度を高めて表面をパンパンに張ってあげれば艶が出ます。

コットンはといいますと、繊維そのものをどんどん拡大していくとその断面は扁平の形状をしており、捲縮があって螺旋のように捩れた形状をしています。この扁平で捩れた形状のままでは光沢が出にくいです。

扁平で捩れた繊維が沢山束ねられた状態で糸になっていると、糸の中の繊維が色んな方向を向いてしまい、一定方向から来た光に対して平らな面や尖った面がそれぞれの方向に光を反射するためです。

コットンは苛性ソーダなどの強アルカリで処理すると繊維が膨潤します。膨潤とは液体を含んで膨らんでいる状態で、鍋料理に入れるくずきりなんかを想像してもらうと分かりやすいかもしれません。このときのコットンの繊維断面は扁平から丸に近い形に変化します。

この膨潤した状態で繊維の断面が丸みを帯びているから光沢が出るのだという説明で終わっているケースがたまにありますがこれは間違いです。

アルカリ処理を終えて乾燥した後のコットンの繊維断面は多少の丸みを帯びていますがまだまだ扁平で、繊維本来の捲縮が残っているために糸の中の繊維方向がまばらな為に光沢は少ないです。

実際一般的なコットンの染色にはある程度のアルカリの剤を使用しますがそれでは光沢は出ません。

先に述べたとおり光沢を出すために重要なのは均一性を上げることで、シルケット加工でも同じく繊維を均一に整えることで光沢を出します。

ではどうやっているかというと、答えは非常に簡単でアルカリ処理によって膨潤してふやけた状態のコットンの繊維を思いっきり引っ張って方向を揃えています。

その引っ張りの荷重はシルケット加工の程度にもよりますがものによっては3百キロ/㎡にも及ぶのでかなりの力加減です。シルケット加工前に比べて加工後の糸が5~7%程度伸びるくらい強い力で引っ張ります。

引っ張られたコットンの繊維は捲縮によって縮れていた状態からまっすぐな状態に揃うので繊維方向が均一になって光沢が出ます。

シルケット加工によって光沢は出ますがコットンの柔らかさは損なわれます。これは縮れていた繊維が真っ直ぐに引き伸ばされるために糸が弾力を失うためです。

以上の内容をもとに、シルケット加工を簡単に説明するとこうなります。

セルロース系繊維を強アルカリでふやけさせておいて、強い力で引っ張って繊維を真っ直ぐにそろえる。

アルカリ処理で光沢を出すとか、テンションをかけながらアルカリ処理して光沢を出すとか様々な説明がなされていますが、要は繊維方向を整えるのに化学的に繊維を変質させて物理的に方向を揃えるという2つの処理を施すことがシルケット加工の主な内容です。

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