斜行を止める具体的な方法について。撚糸回数計算についての略式モデル。

前回糸の斜行を止めることがニット製品の型崩れを防ぐことに必要であることを書きました。

そしてそのために必要なことは根気強く試験するということだと述べました。

とはいえ、闇雲に試験をしていては効率も悪く作業量も膨大になってしまうので、糸の撚りバランスを合わせるための基本的な考え方を元に最初のサンプルを作成し、出来るだけ試験の回数が少なくなるようにします。

今回はやや専門的なお話になりますので、分かりにくい内容になってしまうことをご容赦ください。

撚糸バランスをあわせることの基本は糸のトルク(回転の力)を相殺することです。

糸はワタを加工して作られるものでその工程を紡績と呼ぶことは以前書きました。

紡績段階でワタに撚りがかけられて糸になりこの時に出来上がった単糸にはトルクが発生します。

仮想モデルでのお話になりますが、10の力で右方向に撚った糸は10の力で左に戻ろうとします。
この10の力で撚った糸を2本引き揃えて左に撚ると凡そ5の力で撚りバランスが合います。

この力の相殺についてご説明するためには「てこの原理」の基本的な考えを理解しておく必要があります。

「てこの原理」について皆さんも一度は耳にされたことがあるのではないかと思います。
日常生活でも実は色んなところで「てこの原理」を使って生活の利便性は高められていて、例えばドアノブや水道のノブ、自動車のハンドルや自転車のペダル、洋バサミやペンチなどもその原理を使ったものです。

子供のころにバットの柄の部分と先の部分をもって力比べをする実験をされた方もいるでしょうか。
http://science.wao.ne.jp/experiment/recipe.php?contents_no=51157

「てこの原理」で力が作用する形は色々とありますが、糸の撚糸トルクバランスを合わせる作業はこのバットの実験に近い形になります。

柄の部分の直径に対して先の部分の直径が2倍になる時、柄の部分を回転させる力の半分の力で先の部分に逆方向に回転を加えるとバランスが合います。つまり円の回転の力を相殺する場合逆方向に加える力は径の長さに反比例します。

この原理を基に考えた時、単糸の断面の径に対して双糸の断面の径は2倍になるため、撚糸のバランスをあわせるには1/2の力で良いという事になります。

これはあくまでも略式のモデルですので実際にはこれほど単純ではありません。撚糸のトルクは糸の伸長方向に対して全く直角の方向に加わっているのではなく、伸長方向に向かって斜めに加わり結果的には螺旋状に力は伝達しています。

本来この力学を説明するには「力のモーメント」を用いる必要がありますが、あまりに複雑な式にしてしまうと実用性が失われるのでここではてこの原理の範囲内である程度の数値が割り出せれば良いと考えます。

さて、双糸の場合はこれでよいですが三子や四子などになった場合はどうでしょうか。

回転径が単純に3倍になるのであれば撚り数は1/3ですし4倍ならば1/4ですが、実際は違います。
三子の場合引き揃えられた糸は巴の形のように3本が寄り添って並ぶため、回転径は3倍ではなくおよそ2.3倍になります。
実際の糸作りにおいては双糸や三子だけでなく異番手同士の撚糸があったり、回転方向が異なる糸同士を寄り合わせることもあるので計算があまりに複雑であっては実用的でありません。

ゆえに、これらを簡略化して実用に落とし込むために撚り上がった糸を1本の丸い断面の糸と考える略式モデルが有効だと思われます。

出来上がった糸の断面が円形であると仮定すればその半径は非常に簡単に求めることが出来、半径が分かればその逆数を元糸のトルクにかけることで最適な撚糸回数を計算することが出来ます。

円の面積=円周率×半径の2乗 という公式に基づいて考える場合単糸の円の面積:三子の円の面積はすなわち単糸の番手:三子番手(この場合はデニール比を元にしています)となります。

円周率は両辺にかかっているので切り落として考えた場合、それぞれの面積比から径の比率を割り出すには面積の値を平方根に直せば良いので三子の場合は√3≒1.732、四子の場合は√4≒2です。

双糸の撚りバランスが単糸の約半分になることをベースに考えていくと、双糸の断面を円と仮定した場合の半径を単糸の半径に対して√2≒1.414なので三子の撚り回数は双糸の撚り回数×1.414/1.732(=0.8164)と考えられます。以下四子の場合は三子の撚り数×1.732/2(=0.866)となっていきます。

この考えを基にしていく場合、双糸の撚り回数は単糸に対して×0.5、三子は双糸の撚り回数×0.8164、四子は三子の撚り回数×0.866というように計算していくことが出来ます。

かなり簡略化していますし、トルクの螺旋構造を計算に入れていないので数字は不正確ですが、この計算方法が分かっていれば凡そ必要な撚り回数にあたりをつけることが出来ます。

断面積だけで計算するので異番手同士の撚糸の場合にも使えるのも利点です。

今回はなかなか専門的な内容になってしまいましたが、ファッション業界でありながら工業でもあるのでときにこのような計算に基づくものづくりも必要になります。

こんなことばっかり研究していないで、ちゃんと流行のファッションのことも知らないと駄目なんでしょうが。。。

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