「Tシャツを糸から作っています」ということのもう少し詳しい話。

東大阪繊維研究所というブランドはTシャツを作るためにまず最適な糸から作るということをとても大事にしています。

これは私たちが糸屋さんであり、糸作りをずっと生業にしているからこそ行き着いた思いです。

洋服を購入される消費者の方々の多くは服がもとを正せば糸から出来ていることをご存知だと思います。

だから、洋服メーカーはみんな糸から生地を作り生地からTシャツを作っているんじゃないのかい?と思っているかもしれません。

その考えは正しくて、糸から生地を作り生地からTシャツを作るのは間違いないのですが、アパレルメーカーで糸作りからの全ての工程に携わって洋服を作っている会社は、実際のところ少ないだろうと思います。

アパレルメーカーの多くは生地メーカーから提案された生地を選んで購入し、生地メーカーは糸メーカーから提案された糸を選んで購入しています。

例えばトヨタ自動車などの自動車開発の場合、エンジンやギアボックスやサスペンションなど、必要な技術は自社ないしは自社系列の子会社で開発して一台の車を完成させます。(たまに他社と業務提携して作ったりしてますが、細かい話はちょっと置いときましょう。。。)

けれど、洋服のメーカーの場合はほとんどが各社分業になっていて、糸メーカーは糸を開発し、生地メーカーは生地を開発し、アパレルメーカーはデザインを本業としています。

糸作りの部署まで内部に持っていて素材開発を自社で行っているロロピアーナのような会社も一部ありますが、ほとんどのアパレルメーカーに糸作りのノウハウはありません。

分業になっていることで各社それぞれの分野で専門的に掘り下げたものづくりが出来るので、本来であればこの図式によってバリエーション豊かな洋服が生まれてくるはずです。

しかし、結果的には反対に業界の商品の均一化を生み出してしまっている、というのはよく言われていることです。

ある程度の規模のアパレルメーカーであれば生地メーカーから提案された生地を選んでその生地にオリジナルの色を染め付けて使用しますが、小規模アパレルの場合はメーカーのストックしているカラーをそのまま使用することも多いです。

洋服の生産ロットが小さく生地の染色ロットに満たないため、少量で購入可能なストック品を使用せざるを得ないからです。

メーカーがストックしているものであればアパレル企業側が生地の在庫リスクを背負うことなく、自分たちに必要な分だけを必要な時に購入できるため、企画デザインから商品完成まで比較的短納期でスムーズに進めることが出来ます。

メーカーは生地をストックする際ある程度の量で仕込むのでコストも抑えらるため、アパレルメーカーは安価な生地を購入することが出来ます。

各生地メーカーもそれぞれに企業努力をしているので彼らの生地が廉価な粗悪品というわけではありません。各社にはテキスタイルデザイナーがいて、毎シーズン新たな生地を生み出すべく工夫しています。

しかし、各社ある程度のボリュームで商売をするためには最大公約数でモノをつくる必要が有り、ストックされている生地は良くも悪くもオールマイティーで優等生的な生地になることが多いです。

値段がそれなりに安くてメンズにもレディスにも使いやすく、若いブランドにも年配のブランドにも合うような生地であれば販売のチャンスが増えます。

生地をストックして販売するというリスクを背負うに当たっては、これらの要素を出来るだけ満たしたものにしたいというのは理解できるところです。

けれども、そういったことが業界全体で蔓延してしまい、糸メーカーは糸メーカーで優等生をストックする、生地メーカーも然り、となって均一化を生んでしまっています。

そういった状況のなか、例えばものすごく生地が分厚いけれどもごわつかないで凄く肌触りのよい生地を、全てオリジナルのカラーで作りたい!と思ってもなかなか実現しません。

アパレルメーカーが生地メーカーにそういった生地を依頼してもストックしているはずもなく、かといって別注生産のロットにも満たないために作成できない。

糸メーカーも紡績から別注で作るとなると大きなロットになってしまうため、そういった糸を作ることは難しいです。

長年こういった状況を見ていて歯がゆい思いもしてきた結果、糸屋である私たちがTシャツを作ることでこういったジレンマの無い自由な発想のものづくりが出来るんじゃないか!と思い立つにいたったわけです。

ドライタッチなのにチクチクしなくて肌当たりが良く、ポリエステルが入っているのにピリングもしなくて、カラフルな色が付いていてメランジカラーもあって、というようにやりたいことがいっぱい詰まった一着を作ろうとしたら、その為の糸から作らないと実現しない。

それが糸屋である自分たちなら出来るはずだ!と思っています。

もちろんそれを生地にしてTシャツに縫製するに当たってはニットメーカーさんや整理仕上げ加工場さん、縫製メーカーさんたちの協力が必要です。

そういった方々とチームのような家族のようなお付き合いをする中、しょっちゅう顔を合わせてあーだこーだと言いながらそれぞれのTシャツを生み出していっていまして、その当たりの楽しいやり取りのお話はまた近々いたしたいと思います。(笑)

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