アパレル向けニット糸を生産するにあたって加工ロスをどの程度見るかというのが常に問題になります。
糸は染色や撚糸の工程で少しずつ減量していくのですが、この減り具合が色や番手によって少しずつ違っていて、例えば100kgの原料を投入した時に黒は95kgの歩留まりがあるのに、白だと93kgしか出来上がらないということが普通に発生します。
天然繊維の場合この歩留まり計算が少々厄介で、その時々の原料ロットや気候条件の違いによって同じ商品を作っても数パーセントの増減があります。
過去の経験やデータをもとに投入量を増やしたり減らしたり細かい調整を行うのですが、これがばっちり上手くいくことはほとんどなく、出来上がりが3kg多いとか1kg少ないなんてことが頻繁に起きます。
お客様も多少の誤差を見てオーダーしてくれるので多くの場合そのまま納品させてもらうのですが、オーダー数量が多くなってくると5Kgや10kg多く出来上がってしまう場合もあり「さすがに全部は受け取れません」と言われてしまうこともあります。
ほかにも色を間違えて作ったり、これは売れる!と思って作った商品が全く売れなかったり、とにもかくにも製造業にとってこの残り物の問題は深刻です。
従来はそれらを次の商売のサンプルとして使っていたのですが、多いときは1年で100キロを超える糸が残ることもあってサンプルだけでは使いきれず、実際のところ数年分たまったらまとめて廃棄していました。
まさにお金と労力を全て無駄にする行為です。
この残糸を何とかしたいと常々思っていたので、試しにうちの手芸糸と洋服のブランド「亜麻色雑貨店」で今年の1月から「工場の残り糸」シリーズとして販売してみたところ、おかげさまでとてもご好評をいただき発売するたびにすぐに売り切れる状態になっています。
他社さんでもニット工場の残糸販売はされているのですが、うちの「工場の残り糸」シリーズはちょっと特殊で、残っている糸をそのまま売るのではなく撚糸アレンジを加えてだいたい毛番手の1/4NM~1/6NMくらいの太さに撚り合わせてから販売しています。
糸の巻き量も300gとか100gの定量に巻いていて、この撚糸と巻き上げの工程を通して糸不良がないかチェックすることで、残糸でありながら正規品と変わらない品質で販売しています。
もちろんゼロトルク撚糸で仕上げるので、出来上がった作品を水洗いされても型崩れや歪みが起きません。
うちの糸はリネンなら一等亜麻、コットンなら超長綿が多く、その他18.5マイクロンのファインメリノウールやスパンシルクなど普段からかなり上質な素材を扱っているため、残り糸の原材料もかなりの高級品ばかりです。
そういった意味で、購入されるお客様にとっても使いやすくてかなりお得な糸が揃っているのがご好評の理由かなと思っています。
お金をかけて廃棄していたものが収入になるし、場所を取っていた糸が無くなることでスペースは広く使えるし、その上お客様にも喜んでもらえて有難いことばかりです。
これもひとえに社内に撚糸設備があることや、大量の撚糸データが蓄積されていることなど、これまで追求してきた糸作りの賜物だと思っています。
今風の言葉でいえばアップサイクルということになるのかと思いますが、一旦行き場を失った糸たちがまた活躍できることも嬉しいので、これからも引き続き質の高い「工場の残り糸」をご提供していきたいと思っています。

