リネン糸の良し悪しを決める諸々のこと

前回リネンという言葉の説明をしましたので、今回はその紡績方法について書きます。

この話はちょっと長くなってしまうので、何度かに分けてお話しします。

リネン原料となるフラックスもコットンやウールと同じく短繊維といわれる部類のものなので、糸にするためには紡績という工程を必要とします。

同じ天然繊維といってもフラックスはコットンやウールと違って地面から生えている植物の茎や枝の部分から繊維を取り出して紡績するので、ワタや毛とは違う前処理が必要になります。今回は主にこのフラックスの前処理についてお話します。

畑に生えているフラックスの草を刈り取ったらまずはそれを熟成させます。これは草の中心にある木質の部分と表面の硬い表皮の部分を除去して繊維部分を取り出すための準備です。

熟成の工程をレッティングと呼びます。刈り取った草を束ねて畑に並べて土壌と風雨の力とを利用して熟成させるのがデューレッティング。人工的に造ったプールに草を入れて熟成させる方法をウォーターレッティングと呼びます。

デューレッティングされた草は土壌の色の影響を受けるため、多少土色がかった茶色いベージュになります。土の中のバクテリアなどが草の硬い部分を分解して繊維質を取り出しやすくしてくれます。一般的なリネン糸にはこの方法で熟成された原料が用いられています。

ウォーターレッティングされた草は純粋な植物の色なので黄色味がかったベージュです。黄金色と表現する人もいるくらい非常に綺麗な色が得られますが、デューレッティングのものよりもベタ色に近くメランジトーンが弱いです。この方法はエジプトなど一部の地域で用いられています。
ウォーターレッティングの別の特徴として何よりも臭いがきついことがあります。年配の方であればご存知かもしれませんが、瓢箪やヘチマの種を抜くために水に浸して腐らせた時のあの臭いに近いです。

レッティングされた草は芯と表皮の硬い部分を取り除くためにスカッチングという工程に進みます。これは草を叩いてほぐす工程です。

草の芯にある硬い木質部分と表皮の殻状の部分を叩いて分解し、原料全体を柔らかくほぐしていきます。この時に本来取り出すべき繊維の部分に過度なダメージが与えられないよう適度な強さで叩く必要があり、原料メーカーの腕の良し悪しによってこのスカッチングのコンディションに差が出ます。

スカッチングされた原料は場合によってはそのまま紡績されます。これは太番手の粗い糸になり、木質部分や殻もたくさん残っているので肌触りもチクチクして固い風合になります。

スカッチングによって叩かれた草から硬い部分を除去する工程をハックリングと呼びます。硬い金属で出来た櫛状のものに草の束を引っ掛けて引っ張るという非常に単純な工程ですが、櫛の刃の間隔や引きの強弱などの部分で原料メーカーの技量が影響する点はスカッチングと同じです。

話が前後しましたが、そもそもフラックスの原料の中に繊維の長い部分や短い部分があり、繊維の長い部分はライン、短い部分はトウと呼ばれています。
綿の場合は原綿の長さによって中綿、長綿、超長綿などと呼び分けていますが、リネン紡績の場合大きくはラインとトウと呼び分けています。
繊維の長いライン原料のほうが細い番手の紡績が可能で糸も柔らかく繊細に仕上がります。このライン原料を日本語では一等亜麻と呼びます。ちなみにトウが二等亜麻です。

この二つの水準の原料に対してスカッチングとハックリングの工程を施したものがリネン紡績の原料となるわけです。

スカッチングされたトウ<スカッチングとハックリングされたトウ<スカッチングされたライン<スカッチングとハックリングされたライン

の順番で質は良くなります。

当社のリネンにはこのスカッチングとハックリングを施したライン原料だけを使っています。

原料の産地がどの国であるかということだけじゃなくて、ハックリングまで施されたライン原料を使っていますよということが実は非常に大事ですよという話ですね。

ということで次回に続きます。

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