持続可能性という言葉はこれからもっと大事になってくると思います。

当社は設立以来ずっと春夏向けのニット糸を中心に販売してきました。

中でも天然素材といわれるコットンやリネンの取り扱いが圧倒的に多く、それらの素材背景や製造工程などについて私自身、実務経験を通じてそれなりに学んできたつもりです。

これまでは自分の仕事に生かせるのならと思い、様々な工場さんを見学したり原材料を拝見したりして色んな方に沢山のことを教わってきました。

けれども自分が40歳を過ぎた辺りから、これらの知識をどうやって次の世代に継承していくかを考えるようになりました。

今回、とある客先様から社内の若手社員向けに春夏素材の講習会を行って欲しいというご要望を頂き、自分のような若輩にはおこがましいことかなと思いつつお受けすることにしました。

少なくとも18年間糸屋として学び経験してきたことがこれからの世代に少しでも役に立つのなら、いよいよ躊躇せずに伝えていく責任があるのかも知れないと感じてのことです。

今年も多くの繊維関係の工場が廃業しました。

愛知県名古屋市や一宮市の染色工場が相次いで廃業し、撚糸工場も減る一方です。

理由は簡単で、採算が合わないから。

採算の合わない事業が廃止されるというのは資本主義の世界では至極当然です。

衣食住という生活の基本要素を成すものなので、衣料に関する産業はゼロにはならないということをこれまで繊維産業に携わる多くの人が言っていました。

けれども、流通インフラが十分整備された今となってはあらゆる繊維商品が海外から手当て可能で、日本国内の繊維産業がゼロになる可能性も十分あるように思います。

そうならないため、生き残るつもりのある企業は各社で出来得る限りの企業努力をしています。

生き残る=持続可能性がある

自分の代で終わりにするつもりだという経営者であれば、自社に持続可能性があるかどうか考える必要は全くありません。

自社の機械が壊れたところでやめよう、やる気がなくなったときにやめよう、という程度の気持ちで仕事をしていても良いわけです。

けれども、自社を永続的に維持したいと考える経営者は、社内に後継者を育て、あらたな設備や事業に投資するための利益を得て、自らの家族を養い、従業員の家族も養っていくだけの収益を上げるということを前提に採算を組む必要があります。

仮に一日あたりの水揚げ量が200kg程度の小規模の撚糸工場の場合、糸を撚糸するための加工賃を1kgあたり150円程度と仮定すると150円×200kg×25日=750,000です。(現実を踏まえて月当たり25日稼動で計算しています。。。)

ちなみに一日200kg程度の糸を毎日加工しようとするならば少なくとも二人以上の従業員が必要になるでしょう。

ここから電気代、梱包ケース等の資材代、運送賃、工場の賃借料、機械のメンテナンス料などを差し引いた額が工場で働く人たちの賃金となります。

そこからさらに未来への投資として新たな機械設備を購入したり、新たなビジネスに踏み込むための資金を積み立てることはできるでしょうか。

あくまでも試算ですが、

一ヶ月の電気料金 50,000円
梱包資材(段ボールや糸の巻き芯となる紙管) 100,000円
工場の賃借料50坪×坪単価3,000 = 150,000円
運送料1kgあたり40円程度×月産5,000kg = 200,000円

その他雑費がいくらかかるかによりますが、この計算では二人分の人件費は最大月当たり250,000円の計算になります。

ここに持続可能性を見出すことはできるでしょうか。

小規模な撚糸工場の殆どが高齢の方によって運営されているため、既に扶養家族も少なく年金ももらっているということで、上記に近い採算で何とか成り立っているというのが実際のところじゃないかと思います。

けれども撚糸工場だけでなく糸巻きや機織り・編み立てなど繊維産業のほとんどはこういった小規模工場で成り立っているので、それらの人たちが持続不可能になったところで終わります。

今回素材の講習会ということでお話しする内容は世界のコットンやリネンの品種やその分布、紡績や染色の方法など、概論的な話になるかと思いますが、そこでも持続可能性という言葉を用いるつもりです。

ファッションの世界で今盛んに言われている持続可能性(ファッション業界の人はサステナビリティということが多いでしょうか)については、オーガニックコットンやリサイクルポリエステル、もしくはBCI(Better Cotton Initiative)などの言葉が取りざたされることが多いのかなと思いますので、そのあたりの話をしようかと思っております。

これらは大人口を対象とした地球環境レベルの持続可能性の話です。

これはある意味表層的な、言い換えると表の話といえるかもしれません。

今回はそれに対する現場の実情の話、いわば裏方の話をすることはしません。

けれどもいつか、出来るだけ近い将来にそれも伝えていかなければいけないのだろうと思っています。

持続可能性が無い=生き残らない

ビジネスとして成り立っていないのなら消滅して当然ということなのか、その産業がなくなると自分たちのビジネスにもマイナス効果を及ぼすのか。

これからの世代に一度この事実に向き合ってもらうきっかけを、おっさんと呼ばれる年代になった自分が作らなければいけないのかなという責任を感じています。

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