「日本製」や「メイドインジャパン」という言葉だけではモノは売れないのじゃないでしょうか。

最近国産のジン、いわゆるクラフトジンと呼ばれるジャンルのお酒にはまっております。

ジンというお酒はその製法の特徴からそもそも複雑で独特な味わいのものが多く、各社個性を上手に発揮して様々な味を作り出していて、その中に日本のメーカーもちらほら登場し始めているようです。

多種多様なジンの中から自分好みのモノを探すのもなかなか楽しいです。

これと同じようにシングルモルトと呼ばれるウイスキーも産地やメーカーによってそれぞれ個性のある味を作り出していて、その味を飲み比べるのが面白いお酒です。

シングルモルトにはスコッチと呼ばれるイギリス北部の産地で作られたものが多く、人口や面積などを考えてもイギリス北部にここまで多様なウイスキーメーカーが存在するものかと驚かされます。

ウイスキーといえば近年サントリーの響が世界の蒸留酒の大会で最高賞を受賞しています。

サントリーが最初に国産のウイスキー作りに着手したのが1923年なので、およそ100年かかってついに世界の頂点にたったのだと思うと、そこには途方も無い努力と研鑽があったのだなと感銘を受けます。

ただ、このニュースをみて「日本のものづくりが世界を制した」とか「メイドインジャパンのクオリティが世界に認められた」と報じるようではいささか旧態依然とした国威発揚に過ぎるかなと思います。

あくまでもサントリーというメーカーで働くスタッフの努力が実った成果であり、日本全体の蒸留酒作りの水準が高いことはぜんぜん示していないのだということを冷静に考えなければいけません。

シングルモルトやジンなどを飲み比べるにあたっても、それぞれのメーカーやブランドネームが看板になっていて、ここの樽が良いとかここのポットスチルが独特であるとかいうことが商品の違いや品質の差を生み出しています。

フランス製のジンだから美味しいのではなく、フランスのこのメーカーのこの取り組みが独特の甘みに直結しているのですよ、などとバーのマスターが簡潔に説明できるほど分かりやすい特徴を持った商品だからこそ、世界の様々な国に輸出され愛飲されているわけです。

我々のような小規模な糸屋さんでも海外に向けて糸を販売する機会が少なくありません。

その時に「メイドインジャパン」だから買いたいという理由で注文を頂くケースはほとんど無く、あくまでも品質や価格とプロモーションの良し悪しで選ばれています。

もちろん現地に赴いて直接商品のアピールポイントを伝えることも必要ですし、品質の良さに直結する自社独自の技術的な裏づけも伝えなければいけません。

海外でのプレゼンの際に「これはメイドインジャパンです」と伝えた結果「それなら品質が良いのですね」というリアクションを受けることは正直なところほとんどありません。

以前とある一般社団法人が日本製の繊維・アパレル製品について、それが日本製であるということの認証を行うということで、その団体に登録するように勧められたことがあります。

当社の糸が日本製であることを認証してもらうために10万円の申請料がかかるということで、その10万円の使途やメイドインジャパンであることがどれほど訴求力があるのかなど、いくつか質問をしましたが、とくに納得いく説明が無かったのでお断りしました。

その後はそういったお話を頂くこともありませんが、先日その団体についてたまたま耳にする機会があったのでウェブで調べてみたところ、大手のアパレルメーカーが主導して運営している社団法人でした。

そのアパレルメーカーの中には当社も間接的にお世話になっている会社もありましたが、ほとんどが海外生産を中心に商品展開している会社ばかりで、中には最近海外の工場と直接取引をする部署を新設し海外生産をさらに押し進めている会社もありました。

自分たちが海外でばかりものづくりをしていることへの罪悪感や罪滅ぼしのために日本製をアピールする法人を作ったのかな?と勘ぐってしまいますが、ともかく海外で作ったものを主に販売している人たちが急に日本製は良いとアピールし始めたことに大きな違和感を覚えました。

そして、その人たちの取り組みをみていても、各社の詳しい技術についてはあまり触れられておらず「日本の技術が、、、」とか「日本製の品質が、、、」などと書いているばかり。

このメーカーのこの技術がこの商品の特徴を生み出していて云々というようなことはあまり伝わってきませんでした。

そもそも顧客の方々がそれほどまでに「日本製」を求めているのでしょうか。

洋服を買いたい人の大多数はもっと単純に可愛い、カッコいい、安いといったシンプルな基準で物を選んでいるのではないでしょうか。

そして洋服が大好きなコアなファッショニスタの人たちはもっと独自性があって自分の好みに合うものを、独自の価値基準と嗅覚で嗅ぎ分けて選んでいるのではないでしょうか。

たとえばジーパンは鬼デニムを愛用していますとか、ニットは気仙沼ニッティングばかり着ていますなんて人たちは、それぞれのメーカーの商品のクオリティだけでなく各社の取り組みやストーリー性などに共感してその商品を選んでいるのであって、国産メーカーだから良いものだというのは選ぶ理由になっていないのだと思います。

この共感というのがこれからのビジネスにとって非常に重要なのだと思います。

プラスチックストローをやめますというカフェしかり、コットンはオーガニックしか使いませんというアパレルしかり、顧客の方々が「それは良い取り組みですね」と思うから少々高くてもお金を払ってくれるのであって、「日本製」なんていうぼんやりしたアピールポイントでは心に響かないんじゃないでしょうか。

そう考えると、我々のような小さな会社こそもっと分かりやすく特徴的である必要があると思いますし、購入してくれる人の心にもっと響くように商品の価値を伝えなければいけないのだと思います。

奇しくも「響」という名のウイスキーが世界の頂点に立ったことが、それを感じる良い機会を与えてくれたように思います。

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