リネン原料となるフラックス栽培には農薬を使用しませんよ、と説明してもエコ企画的にはあんまり相手にされません。

前回の記事でエコロジーについて思うことを書いてみました。

自分のスタンスとしてはどちらかといえばエコ推進派だと自覚しています。

生物多様性が失われないよう生態系が維持されていて欲しいし、絶滅危惧品種の生き物も何とか守っていきたいと思っています。

しかし実情としてエコロジーの意識を普及させることはかなり難しく、今のところ個人個人の善意に依存しなければいけない状況です。

個人は個人の欲求を満たすために活動するので、他者の為に慈善的に活動しようと心がける人は絶対的に少数だと思います。

だからエコロジーのビジネスは普及しづらい。

それに加えてエコロジーの考え方が普及しづらいのはその分かりにくさにもあると思っています。

たとえば私が生まれる前の洗濯洗剤にはリン酸塩などのリンが多く含まれていました。

このリンやその他の窒素化合物が川や湖に流れ込むと、富栄養化という現象が起こります。

富栄養化というのは文字通り水に含まれる栄養が過剰になってしまう状態です。

この状況下では水草などの水生植物が大量発生し、それらが夜間に呼吸するため水中の酸素が失われて魚が死滅します。

さらに水生植物が枯れて水底に沈殿するとそれらが腐り、魚などの死骸とともに悪臭を発生させます。

この富栄養化の対策としてリンを含まない洗剤が発売されました。

私の子供時代にはテレビCMなどで無リンというのを謳い文句にしていた洗濯洗剤が多かったです。

しかし今ではそれもスタンダードになり特に無リンを前面に打ち出している洗剤はなくなりました。

今はもっと他のたとえば植物由来であるとか、部屋干しできますとか、ナノレベルで繊維の奥まで浸透しますとかが流行でしょうか。

いずれにしてもこの無リンのストーリーが示すとおり、エコロジーを説明するのは非常に難しい。

ただ洗剤のパッケージに「無リン」と書いてあっても、だから何が良いのだろうかというのがすぐに分からない。

食料品の「糖質オフ」とか「カロリーゼロ」とかの方が直感的にメリットが分かりやすいです。

車なんかのCMで「リッター27キロ」とか「低燃費」というのもありますが、こちらの方がまだ断然分かりやすいですし、エコカー減税なんていう国の施策もあったので車に対するエコ意識は多少浸透したと思います。

さて繊維の話。

当社が多く扱っているリネン。

その原料となるフラックスという植物を栽培するに当たって、実は農薬は使われていません。

フラックスという植物は強いので特に除草剤や化学肥料などを必要とせずにぐんぐん育ちます。

けれどもオーガニックと表記はできない。

なぜならば、潤紡という方法で紡績するにあたって工程の中で洗剤や漂白剤を使用するからです。

畑には農薬は使わないのですが、糸を作るにあたって薬品を使用するのでオーガニックではないというわけです。

また、フラックスがぐんぐん成長できるのは畑に含まれる養分を大量に吸収するからで、そのためにフラックスを栽培した後の土壌は非常に痩せてしまいます。

その痩せた土壌を回復させるために、フラックスを栽培する畑では6~7年周期でジャガイモやトウモロコシなどとの輪作を行います。

輪作というのは一定の周期で栽培する作物を代えていく農法です。

ある年にはジャガイモを栽培し、その翌年にはトウモロコシを栽培し、という風に毎年同じ畑で育てる作物を代えていき、一周したらジャガイモに戻るといった具合です。

ジャガイモやトウモロコシなどの食用の農作物は食べる部分を収穫してしまったら、残った葉っぱや根っこをそのまま腐らせて土壌に混ぜ合わせて腐葉土にするので畑の養分が回復します。

このように上手にサイクルをまわすことでそれぞれの作物を効率よく栽培するのが輪作のメリットです。

この輪作の恩恵を受けてフラックスは無農薬でも十分育つわけです。

なので、私としてはリネンを使っているというだけで十分エコ活動になっていますよ、と考えています。

少なくともポリエステルやレーヨンに比べれば十分エコです。

ただし、ジャガイモやトウモロコシなどを育てるにあたっては多少農薬を使用するので、フラックスを栽培する土壌には微量の農薬が含まれてしまいます。

私自身この話を色んなアパレル関係の方にお伝えして、オーガニックとは表記できませんがフラックス自体は農薬を必要としないということを謳ってはいかがでしょうと提案してきましたが、大抵の場合「それはちょっと顧客に伝わりにくいですね」ということで採用されません。

逆に「もっと分かりやすいオーガニックリネンとかはないですか?」と聞き返されることがあるくらいです。

オーガニックでなければ着用しないという極端なオーガニック推進派の顧客の為に、オーガニックリネンというものを生産しているメーカーもあります。

オーガニックリネンそのものは必要とする人たちがいる以上、それ自体に価値はあると思います。

けれども、何度も繰り返すようにエコロジー活動というものはある程度大規模に展開しないと効果が得られないものなので、一部の極端なオーガニック愛好家のために少量生産しているうちは環境や生態系維持への寄与は少ないのです。

なので私としては、無理してオーガニックリネンを使わなくても普通のリネンを着用しているというだけで、十分エコに寄与していると思ってもらって大丈夫ですよとお伝えしたいわけです。

前回と今回、エコロジーについて思うことをつらつらと書いてみて改めて思いましたが、やっぱり説明が難しいですね。

自社の商品も天然繊維がメインですし、まだまだ小さな自分の息子が物心ついたときに出来るだけ色んな種類の動物や植物を見せてあげたいので、私としてはエコロジー活動推進派です。

けれどもエコロジー活動のためには本当に沢山の知識が必要ですし、やり過ぎないバランス感覚なんかも必要かなと感じています。

なにはともあれ、こんなに分かりにくく伝わりづらいエコロジー活動というものに世の中が本気で取り組むようになるとは今のところ思えないのが本音のところです。

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