発注書に「希望単価」を書いて黙って送ってこられるお客様がたまにありまして。

今の時期は春夏ニット用糸の受注の最盛期なので、お客様と日々様々なやり取りを致します。

在庫の有無に関する問合せや、納期、番手展開、原料の産地、堅牢度等の物性についてなど聞かれることは様々です。

なかでも価格に関する問合せは最も多く、特に生産数量によって価格が変動する商品についてはお互いの認識に食い違いが無いように、慎重にやり取りします。

まず多いのが小口の場合のアップチャージに関する取り決めで、1色あたり10kg以上の受注の場合はいくらで、それを下回ると1キロ当たり¥1,000のアップチャージですよ、逆に1色あたり50kgを超えると1キロ当たり¥100下がりますよ、といったようなシンプルなやり取りが中心です。

それ以外に、生地糸と染め糸を掛け合わせた場合と染め糸同士を掛け合わせた場合の違いや、それを1.5倍の太さに変更した場合の価格の試算など、個別に計算するちょっと複雑なやり取りもあります。

どの価格についても一旦取り決めたことについては後から覆せないので、お互いが共通の認識を持つようにメールなどに履歴を残しながらやり取りします。

そうやって価格を確認し合い、サンプル作成をした上で本生産のスケジュールや物性等の確認を経て本生産の受注という運びになります。

本生産の発注書には取り決めに従って商品の価格が明記されることがほとんどです。

ところが、時々その発注書の価格欄の横に「希望単価」という文言とともに、取り決めた単価よりも安い価格を記載して送付してこられるお客様があります。

「糸単価¥4,000/kg(希望単価¥3,700/kg)」というような書き方が多いです。

恐ろしいことに、お客様の発注書のフォームにもともと「希望単価」を記入する欄があるというケースも時々見受けられます。

希望単価と書いて来られるお客様の気持ちとしては「単価¥4,000というのは分かってますが、本当なら¥3,700で購入希望ですよ」という気軽な感じだと思います。

はっきり申し上げまして、この手の発注書を書いてこられるお客様に対しては「非常識な人だな」と思っております。

こんな失礼な内容を書いてよこすくらいなら、本当の意味での希望単価なんてどんなものでも¥0に決まっているのだからいっそのこと「希望単価¥0」と書いてよこせばいいのに、とさえ思います。

そうすれば躊躇無くきっぱりとお断りできるというものです。

「実際のところ¥300くらいなら安くできるんじゃないですか?」というような微妙なラインを狙って書いてみているつもりなのでしょうが、こちらからすれば当社の商品には取り決めたとおりの価値が無いといわれているようで非常に不快です。

「微妙なラインをついてくるな~、よし一度検討してみよう!」なんてこれっぽっちも思いません。

糸を撚糸するための撚糸工賃は複雑な工程のものでなければ1キロ当たり¥150~¥300が相場です。

糸を染色するための工賃は素材によってさまざまですが、アクリルやポリエステルであれば1キロ当たり¥400~¥600程度、リネンなどでは¥800~¥1000程度といったところでしょうか。

そこから¥300下げるということはどういうことを意味しているか。

各加工場さんに「今回はなんとかただ働きしてください」とお願いすればよいでしょうか。

そうでなければ当社の取り分を減らして欲しいという意味になるので、当社としては何か決定的な落ち度でご迷惑をおかけしていない限りそれに応じるべきではないと考えております。

当社で働いてくれている社員は概ね真面目で毎日必死になってがんばっています。

その結果、糸には当社の利益を載せて販売し、それを月々の経費や社員たちの給与に充てています。

当たり前のことですが、一生懸命働いた対価として利益を頂いています。

それを削れということは、働いたことを評価しないということだと思っています。

そんなことを言われる筋合いはない。

ましてや「希望単価」というような軽がるしい言葉で我々の仕事の価値を減じられてはたまったものではありません。

この手の発注書を送りつけてきた挙句に、その後メールや電話をしてこられて「お願いしている単価の件いかがでしょうか」というようなことをおっしゃる。

こちらとしては「お願い」されたという認識は全く持っておらず、「失礼なことが書いてあった」というくらいにしか思っていないので、「いかがでしょうか」と聞かれれば「不愉快な気持ちになりました」というのが本当の返答になります。

しかし、そのようにいきなり突き放してご回答するとその後がギクシャクしてしまうので、「価格については取り決めの通りでお願いします」と申し上げるのみにしております。

勘違いしていただきたくないのは、売買する商品について価格の交渉をすることは大いに結構だと思っております。

閑散期にコストを下げてでも製造ラインを動かしたいメーカーだってありますし、余剰在庫については価格を下げてでも減らしたい場合もあります。

お互い納得ずくで取り決めた価格になるのであれば、妥結点に至るまでは大いに双方の考えをぶつけ合って議論をすればよいと思います。

しかし、何のやり取りも無く「希望単価」と書いてよこすようなやり方は、いくらなんでも横暴なんじゃないかなと思っています。

少なくとも当社の社員には絶対そんなことをしないように指導したいと思います。

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