ここで今一度基本的なお話。撚りバランスをピタッと合わせないとニット製品が歪みます。

ここ最近、取引先の方や友人関係だけでなく仕事でお付き合いのある法律関係や金融機関の方などからも「ブログ読んでますよ」というお声を頂くことが続き、その中には初対面の人もいたりして、世の中は広いような狭いような不思議な気持ちになりました。

不特定多数の人に向けて公開している文章である以上、顔見知り以外の人に読んで頂くこともあるわけで、こういった機会があるのも当然といえば当然なのかもしれません。

実際に普段あまり会話することのない方から読んでますよといわれると、嬉しい気持ち半分恥ずかしい気持ち半分といったところですが、興味を持っていただけるというのはやはり有難いことだと思います。

このブログを書き始めた最初のころはアパレルや繊維関係の方がちょこっと目に留めてくれたらいいなという程度の気持ちだったので、専門用語にも特に説明を加えずに書いていました。

しかし、他の業界の方にも伝わるように書くとなるとそれでは良くない。

そういったわけで、当社の糸作りに関する基本的なことを今一度出来るだけ分かり易くおさらいしてみたいと思います。

当社では主にニット用の糸を作っています。

ここで言うニットは衣料品店で売られているセーターやカーディガンなど編んで作られた洋服のことを指しています。

衣料品店で売られているニット製品のほとんどが工業用の編み機で作られていて、その多くが天竺(てんじく)という編み組織で編まれています。

(天竺編み)

この天竺という編み組織が実はなかなか厄介で、糸が安定していないと編地が歪んでしまいます。

糸が安定していないというのはどういうことか。

天然繊維で作られた糸の多くが短いワタの集合体なので、長い糸にするためには一本一本の細くて短いワタを収束させてつなげる必要があります。

紡ぐ(つむぐ)という言葉がそれにあたりまして、これは「繊維に撚りをかけて糸にする」ということを意味しています。

この撚りをかけるということはすなわち糸をひねるということなんですが、ひねりを加えると反発する力が発生します。

この反発する力が糸に残ったままニットを編むと、ニット製品に斜行(しゃこう)という歪みの現象が起きてしまうわけです。

(右下がりに斜行している状態の編地)

この反発の力を抑える為に、2本以上の糸を束ねて最初に撚りをかけた方とは逆のほうに撚りをかけてあげるのが撚糸(ねんし)という作業になります。

なぜ2本以上なのかといいますと、撚りをかけて紡がれた一本の糸(繊維業界では単糸(たんし)と呼んでいます)を逆方向にひねって撚りを戻すと糸がワタに戻ってしまうからです。

そうならないように、紡がれた糸を2本以上合わせて紡いだ方とは逆方向にひねることで、糸の形状を損なうことなく単糸の持っている反発力を抑えてしまうわけです。

単糸の多くは左回転にひねりが加えられていて、これを繊維業界では左撚りまたはZ撚りと呼び、逆方向は右撚りまたはS撚りと呼んでいます。

つまりZ撚りに紡がれた単糸を2本以上合わせてS撚りにひねることで、糸の反発力をゼロにするわけです。

反発力を抑える撚糸をバランス撚りと言いまして、基本的に天竺のセーターはこのバランス撚りにした糸で編まないと形が歪んでしまいます。

単糸の反発力以上にS撚りに強く撚ってしまってもいけませんし、単糸の反発力が無くならない位の弱いS撚りにしてしまっても駄目です。

この図のようにVネックのVの字の先端部分が身頃の中心からずれてしまったり、両脇や両袖の継ぎ目部分が斜めになって定位置からずれてしまい、製品の見た目にも美しくない上に着心地も悪くなってしまいます。

こうならないように撚糸できっちりと撚りバランスを合わせてあげる必要がありまして、これがなかなか難しいのです。

糸にはウールやコットンやカシミヤなど様々な素材が使われていて、それぞれに多様な太さ細さがあり、それぞれが濃い色や薄い色に染められていたりします。

それらの糸ごとに撚りのバランスがピタッと合う撚り加減が異なっているので、組み合わせに応じて適切な撚りをかける必要があります。

当社では自社に撚糸機や編み機を備えて日常的に撚糸の試験を行っており、少量のサンプルも含めて過去に作成した全ての糸の膨大な組み合わせデータを保有しているので、このバランス撚りの技術に強みを持っています。

そんなわけで当社のことをまずは、

「糸の斜行を止められる会社」

と覚えていただけるとありがたく思います。

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